会社のデスクに座り、パソコンの画面に目を向けながらも、頭の中はぐるぐると考え事をしていた。仕事の進行が思うようにいかない苛立ちが募り、肩に重くのしかかってくる。
「今宮くん、この資料、また間違ってるわよ。」
朝から耳にしたその一言が、心に刺さった。みゆきさんの指摘はいつも鋭く、的確だ。けれど、その言い方にはどうしても苛立ちを覚えてしまう。なぜなら、彼女の指摘が的を射ているからだ。自分の未熟さを露呈させられるようで、腹立たしさが募る。
「なんであんな言い方するんだろう…」
昼休み、いつもより早めに食堂に向かうと、先輩の佐藤翔太さんが一人で食事をしていた。佐藤さんは入社以来、親しくしてくれている頼れる存在だ。彼の隣に座り、愚痴をこぼすように話し始めた。
「佐藤さん、大本さんのあの言い方、どうにかならないですかね。毎回イライラしますよ。」
佐藤さんは箸を置き、深い呼吸を一つした後、穏やかな笑みを浮かべた。
「健二、気持ちはわかるよ。でも、彼女の指摘は正しいことが多いだろう?」
「それは…そうですけど。」
「大本さんも昔は君と同じように悩んでいたんだ。彼女の言葉には、君が同じ失敗を繰り返さないようにという思いが込められているんだよ。」
佐藤さんの言葉に、ハッとさせられた。大本さんの厳しい言葉の裏に、そんな思いがあったとは考えたこともなかった。自分が彼女の意図を理解しようとしていなかったことに気づき、恥ずかしさと同時に感謝の気持ちが芽生えた。
その日の午後、大本さんのもとへ行き、もう一度資料を見てもらうことにした。勇気を振り絞り、率直に尋ねた。
「大本さん、この前の指摘、本当にありがとうございます。もっと気をつけます。」
大本さんは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「そう。今宮くんがそう言ってくれると嬉しいわ。私ももっと丁寧に説明するようにするか
ら、これからも頑張ってね。」
その一言が、胸に響いた。みゆきさんの厳しさの裏にある優しさに触れた気がした。
その後も仕事に対する姿勢を改め、みゆきさんの指摘を真摯に受け止めるように努めた。佐藤さんの助言のおかげで、自分の成長を感じることができた。そして、少しずつだが職場の人間関係も改善され、仕事への意欲が高まった。
大本さんの厳しい言葉の裏には、良かれと思っての指摘がある。それを理解できたことで、自分自身も変わることができた。苛立ちが感謝に変わり、今ではみゆきさんに対する尊敬の念が強くなっている。
そして、いつか自分も誰かにとっての佐藤さんや大本さんのような存在になれたらいいと、心から思うようになった。職場での悩みや苛立ちも、今では成長の糧となる大切な経験だと感じている。
コメント